仁義なき戦い 駅弁の匂い

もう随分と前のことですが、新幹線の車内で駅弁を食べることの是非について、ネット上で話題になったことがあります。
話しの主旨は、新幹線に乗った妊婦さんの近くに座った人が駅弁を食べ始めたら、その匂いで刺激され気持ちが悪くなってしまった。だから、駅弁を食べるのを止めるように頼んだけど受け入れられなかった。というもの。
この話しに限らず、駅弁の匂いに伴う車内での飲食の是非については、けっこう話題になっているので、一般的に大きな感心を持たれていると思います。

国鉄からJRに移行し、従来の駅弁業者以外の参入が多くなってしまい、今や駅で売っている弁当の大部分は、伝統的な駅弁業者ではなく、後発の弁当屋さんの商品が大部分となっている、という現状があります。
東京駅や大阪駅をはじめとする大規模ターミナル駅の駅弁コーナーに行くと、そこには、いわゆる「駅弁マーク」の付いた弁当よりも、付いていない弁当の方が多いことからも、このことがわかります。
また、駅ナカ施設の充実とともにデパ地下で売られているような、料亭やレストランの弁当も多数販売されており、本来の駅弁ではない、これらも含めて「駅弁」と理解されている方も多くいらっしゃいます。
ですから、車内における弁当トラブルも、本当に駅弁なのか、それとも単に駅で売られていた弁当なのか、判然としない部分が多々あるのです。

こうした現状がある一方で、駅弁業者にも今までとは違った方向性を持つ所が出てきました。
かなり以前に、老舗の駅弁業者の方に聞いた話しですが、駅弁を作るにあたり特に注意を払っていることとして、
1.衛生管理
2.冷えても美味しく食べられる工夫
3.匂い対策
の3点をあげられていました。
1と2は予想していたことなのですが、3の匂い対策にはちょっとビックリした記憶があります。
でも、確かに駅弁を広げた時に匂いが気になったことは、その当時はありませんでした。
その方の説明によると、
「やっぱり駅弁って電車の中で食べるじゃないですか。その時に周りに匂いが漂ったら迷惑になるばあいもあります。だから匂いについても、けっこう気を使っているんです。どこの業者も皆さんそうですヨ」
と。
そうです。伝統的な駅弁業者は、きっちりと匂い対策まで気を使って調整していたのです。

近年の駅弁人気は、海鮮と肉が二大巨頭。
この中で、強烈な匂いを発する駅弁があるのが肉。
ホント、中にはスゴイものがあります。
特に焼肉系に・・・。
たしかに、こんな強烈な匂いを嗅いだら、妊婦さんが気持ち悪くなるのもわかりますし、そうでなくても、万人向きではない匂いだけに、迷惑だと感じる方がいらっしゃるのも無理はありません。
こうした駅弁が売られている一方で、蓋を開けても全く匂わないものもあります。
匂わないからといって味気ないかというと、全くそんなことはなく、しっかりとした味付けで、肉の旨味は全くそのまま。
筆者が肉系駅弁で最も美味しいと思っているのも、匂わない駅弁です。

牛肉弁当いろいろ(本文とは直接関係はありません)

さて、タイトルの「仁義なき戦い」ですが、その根底には「日本人の牛肉指向」があります。
多くの日本人は「牛肉最高!」と思っていますし、昭和30年代のバナナのように「牛肉=贅沢品」とも思っています。
確かに安価な輸入牛も多くなりましたが、国産牛となると、まだまだ消費者の気持ちには特別なものがあります。
牛肉系駅弁の多くは、米沢、仙台、松坂、佐賀など「ご当地もの」であることを看板としているのですが、弁当になってしまった段階で、その違いがわかる消費者はまずいないと思われます。
となると、どうしても味付けで勝負ということになり、時には強烈な匂いを発するタレを使うばあいが出てきます。そして、ここに匂いの落とし穴が生まれます。
つまり、匂わせないための工夫が優先順位から脱落し、他社との差別化を図るため、これまでにない匂いを伴う味付けが優先となってしまうのです。
食べる人のみではなく、その周囲の人のことまでを考えて作られていた駅弁が、競争という中で、いつの間にか食べる人の「受け」だけを狙い、残念なことに周囲への配慮が無くなってしまった。まさに「仁義なき戦い」たる所以です。

やはり「仁義」は「ない」より「ある」べきでしょう。
願わくは、駅弁業者のみならず、駅構内で弁当を販売する全てのメーカーが「匂い」への配慮を考えて欲しいと思います。
「食べる人」のみではなく「周囲の人への気遣い」のある、人に優しい「駅弁」。
そんな「駅弁」であってほしいと思います。