以前に駅弁屋の喜劇映画をご紹介したことがありましたが、今回ご紹介するのはストーリーの中の1コマとして登場する駅弁です。
そうした映画は幾つもあるのですが、私が特に気に入っているのが、松本清張原作「張込み」。
昭和33年1月の公開作品です。
警視庁捜査1課の下岡と柚木は、質屋殺しの共犯者である石井を追って、佐賀へ向かうことになります。
映画では、佐賀到着までの車中が導入部として約7分間にわたり細かく描写されており、長距離移動手段の中心が鉄道であった時代の様子を知るには、恰好な映画となっています。
彼らが乗った列車は、鹿児島行きの急行「さつま」。
この列車は東京を21時45分に発車し、佐賀への乗換駅である鳥栖には、翌日の23時9分着というダイヤです。
ちなみに「さつま」の東京から鹿児島までの所要時間は約32時間なので、夜行区間が2回もあり、新幹線が無かったこの時代「日本列島は広かった・・・」と思うのは、私だけではないでしょう。
新聞記者の目を眩ますために、東京ではなくわざわざ横浜から乗車した下岡と柚木は、デッキまで立ち客が溢れる中、通路に新聞紙を敷いて一晩を過ごします。
座席に座れたのは、翌朝の京都から。
席に落ち着いた柚木が、他の車両に乗っている同僚を探し訪ねると、朝食の駅弁を食べている最中。
車中1回目の駅弁で、食べているのは形と大きさから、幕の内弁当のように見えます。
SLに牽引された「さつま」は、瀬戸内海沿岸の山陽路をひたすら西へ西へと進み、広島駅で2回目の駅弁を購入。
その時のシーンが面白い。
ホームに出た柚木が駅弁4個を買うと、すかさず年長の下岡が車内から身を乗り出し「おーい!酒だ!酒をくれ!」と立売りに叫びます。
公務出張でも、移動日なら昼から酒も有りというところが、昭和らしくて良い感じ。
幕の内弁当を友に、日本酒で退屈な長旅の気晴らしです。
このほか、別行動の2人の刑事が降りる小郡駅では、ワゴンによるホーム立売りが2人見えますし、博多駅発車のシーンでは窓際に置かれた、汽車土瓶2個を見ることができます。
実は、映画では急行「さつま」に乗っていることになっているのですが、実際の車内撮影は博多行きの急行「筑紫」で行われています。
「筑紫」の最後部に撮影用の貸切3等車1両を増結し、ロケ隊が九州へ向かう車中で実際に駅弁を購入、そして食べるシーンなどをリアルタイムで撮影したことが、後に語られています。
「張込み」は、今でもDVDやBlu-rayで販売されていますし、各種ネット配信でも視聴が可能です。
ぜひ、古き良き昭和の汽車旅をご覧ください。