ご存知ですか?駅弁屋の映画

これまでに膨大な数の日本映画が作られてきましたが、駅弁屋が主人公の映画は、恐らくこれ1本だと思います。
それは「喜劇駅前弁当」。
東宝が昭和36年(1961)12月24日に、昭和37年の正月映画として公開したもので「喜劇駅前」シリーズ24本のうちの1本。
出演は、同シリーズに欠かせない森繁久弥、フランキー堺、伴淳三郎がメイン。

画像は公開時のポスターで、中央左から森繁久弥、伴淳三郎が駅弁立売りの恰好で掲載されています。

舞台となるのは、東海道本線浜松駅前に店を構える互笑亭。
所在地と言い、店名と言い、たぶん皆さんが同じ事を思い浮かべると思いますが、現業の自笑亭さんを想定したようなロケーション。

その互笑亭を切り盛りするのは未亡人の景子で、その弟の次郎(フランキー堺)は、景子を助ける立場であるのに、コーラスグループやオートレースに一生懸命で、仕事の方は今一つどころか、ほとんど興味を持たない。
そんな景子を助けようと、相談に乗ったり、様々な援助をするのが森繁久弥扮する柳田金太郎(織物工場の社長)と伴淳三郎扮する堀本孫作(ストリップ劇場の社長)の2人で、この2人のドタバタ加減が中心となり話しが進みます。

ある時、景子の元に大阪の資本家と名乗る倉持大作が融資話しを持って現れます。
それは、今の社屋を再開発し、駅弁屋だけではない多角的経営を行うという話し。
その融資話しを、景子が街でバッタリ会った元恋人で銀行員の村井五郎に話したところ、その男が詐欺師であることがわかり騒動が巻き起こります。

そんな時に大型台風が浜松に襲来し、東海道本線が運転見合わせになり、駅には長距離列車が次々とホームに入り足止め状態になります。
その乗客用の給食として、互笑亭に国鉄から2600個の炊き出し要請(後に更に1200個が追加)が入ります。
国鉄からは「簡単におにぎりでも」と言われるのですが、景子は「家は弁当屋なので、弁当を作ります」「列車が止まってしまって何の楽しみも無いお客様に、せめて浜松の味でも」と、社員総出で駅弁調整を開始。
メインはもちろん「鰻弁当」ですが、鰻が苦手な人向けに「幕の内」も調整することに。
映画では、調理場での作業風景も出てきますが、おそらく当時、実際に駅弁業者に取材して手順などを再現したものと思われ、なかなか興味深いシーンの連続。

この緊急事態を手伝う事によって、今まで家業に身を入れてこなかった次郎が、腰を据えて家業を引き継ぐ決心をします。

一方、女将として切り盛りしてきた景子は、家業に邁進する気持ちになった次郎に店を譲り、かつての恋人村井五郎と再婚する道を選ぶことに。
映画は、東京で人生を送る事になった景子と村井を浜松駅で皆で見送るところで終わります。

以前に駅弁業者さんから聞いた話では、国鉄時代には何らかの障害で列車が止まると、乗客用の駅弁が大量に発注されていたそうで、まさにこの映画のような光景だったのでしょう。
JR化され、構内営業の枠組みが崩壊した現在では、こうしたことは無いようで、配られるのはペットボトルとパンやオニギリのコンビニフード。

「喜劇駅前弁当」は、古き良き時代の駅弁業者の姿を垣間見る事が出来る、珍しい映画作品であることは間違いありません。
駅弁ファンだったら、一度は見る価値があると思います。
なお、本作品はDVDでの販売や、ネットによるオンデマンド配信で視聴が可能です。