今や、東京、大阪という大都市の駅では、いわゆるご当地駅弁以外の、アッと驚くような遠く離れた地の駅弁が、物流網の発達と高速化のお陰でいろいろと買えてしまいます。
例えば、今回ご紹介する「政宗公御膳」は仙台の駅弁ですが、購入したのは埼玉県の大宮駅。そして、食べたのは軽井沢へ向う車中の北陸新幹線の中という、全てがなんの脈絡もないアベコベな組合せ。
でも、今ではこうした不思議な組合せが普通に出来ちゃうんです。
反面、旅情が薄れた気がしないでもありませんが・・・。
「政宗公御膳」の「政宗」は、言うまでもなく伊達政宗。
宮城、特に仙台周辺の人にとっては「我らが大将」みたいな人物です。
その地元仙台で、伊達政宗生誕450年を記念して「政宗公ワールド」なる、市民主体のプロジェクトが作られ、そのプロジェクト監修のもとに作られたのが、この駅弁。
政宗ゆかりの地の料理や、それに纏る逸話などを探り、献立を構成したもの。
掛紙は見てのとおり、伊達家の家紋の1つ(伊達家には複数の家紋がある)「九曜」の家紋のみを描いたシンプルなもの(画像1)ですが、蓋を開けると彩り豊かで期待が高まります。
駅弁に限りませんが、特に日本料理のばあい彩りが重要なポイント。
この弁当の配置(画像2)が、家紋を模しているのが掛紙と比べるとわかります。よく考えられたアレンジです。
さて、中身の方はというと真ん中にご飯で、その周囲を御菜が囲んでいます。
それでは、御菜の中から特徴的なものを幾つかご紹介しましょう。(画像3)
「鮭の仙台味噌漬焼」
仙台で獲れる鮭は、伊達家から将軍家への贈答品でもありました。その鮭を仙台味噌を使って焼き上げたもの。仙台味噌は政宗が城下に設置した「御塩噌蔵」(おえんそぐら)で作られた味噌がルーツ。
「スパニッシュオムレツ」
政宗が慶長18年(1613)に派遣した慶長遣欧使節の訪問先の1つであったスペイン。そのスペインの伝統的な玉子料理です。
「豆腐田楽」
伊達家一門であった留守氏が治めていたのが岩手県の水沢。その岩手県産「シロメダイズ」を使用した岩豆腐を田楽に仕立て上げたもの。次に紹介する「帆立のかぴたん漬」と
ともに美味。
「帆立のかぴたん漬」
伊達家の分家である亘里伊達(わたりだて)家ゆかりの地、北海道伊達市の名産品の1つが帆立貝。揚げた帆立を唐辛子やネギで味付けし、南蛮漬にしてあります。
「チョコレート菓子・ずんだ白玉団子」
仙台のずんだは有名なので説明はいらないでしょう。チョコレートショコラが入っていたのはビックリしましたが、チョコレートは慶長遣欧使節の支倉常長が、日本人として初めて口にしたと言われていることに肖ったものだそうで、そう聞けば納得です。小さいけれどデザートが2種入っているのが、プチ贅沢感があって食後に良い感じです。
「政宗公御膳」。
単に空腹を満たすためだけに食べてしまうと、彩り豊かな普通の駅弁で終わってしまうのですが、こうしてみると料理1つ1つが弁当に入っている理由があります。
その意味合いを知りながら食べると、弁当を通じて「伊達ツウ」になってしまうという不思議な駅弁です。