あの、東日本大震災から今年で10年。
あの日、筆者は出張で大阪の弁天町にあった交通科学博物館(現在の京都鉄道博物館の前身)に行っており、収蔵庫で資料調査をしていたらグラッと来ました。
大阪でもけっこう揺れ、建物の外に出ると多くの人が様子を見に外に出ているほど。
筆者は文化財の仕事に30年にわたり携わってきたことから、津波で壊滅的な被害を受けた陸前高田市立博物館の復興に、その後、長期にわたり携わることになりました。
この仕事で、年に何回か陸前高田市へ行くわけですが、その帰りに一ノ関駅で買うのが「いわてあぶり焼き和牛弁当」。
実は、私が肉系駅弁を買うことはあまりありません。
理由は簡単で、肉の美味みに感心する弁当が少ないこと、そして弁当としての彩りに欠けるため、買う意欲が湧かないのです。
何回目かの陸前高田通いの帰り道に、何を思ったのか、ふと手にしたのが「いわてあぶり焼き和牛弁当」。
今でも、その時になぜこれを手にしたのか分からないのですが、たぶん、ちょっとした偶然だったのではないかと思います。
もしかすると、前夜の宴会で海鮮尽くしだったので、「たまには肉でも」と思ったのかも知れません。
いずれにしても、大して期待もせずに買ったことだけは確かだったと思います。
さて、新幹線に乗り自席に着き、弁当を広げ一口、二口。
「ムムム・・・。これはいける!」
脂身と肉のバランス良し。
タレの味付け良し。
肉とご飯のバランス良し。
しかも、弁当を広げても肉系駅弁に有り勝ちな、匂いが立ち込めないのです。
以前にも他のコラムで書きましたが、駅弁の匂い対策は極めて重要。
これが十分に出来てこその駅弁なのです。
このこと一つをとっても、調整元である斎藤松月堂さんの、駅弁作りに対する真面目さが伝わってきます。
また、冷めているのに美味しく食べれるという点でも、駅弁の基本をしっかりと守っていると言えます。
近年の肉系駅弁花盛りの中にあって、冷えるとボソボソになってしまう肉を平気で使っている駅弁もあるのに、この駅弁は「冷えてこそ、美味しい駅弁」を主調してさえいるようです。
味付けは、醤油と砂糖で甘辛くした極めてオーソドックスでありながら、写真を見てもわかるとおり、とてもジューシーな仕上がりで、肉と脂身のバランスも実に見事というほかはありません。
もちろん使われているのは和牛ブランドの1つ岩手牛。
そして米は、東北ゆかりの「ひとめぼれ」。もちろん岩手米です。
もし、どこかの肉系駅弁で「失敗した!」と思われている方がいらしたら、一ノ関駅「いわてあぶり焼き和牛弁当」で、リベンジをオススメいたします。