毎年恒例、新宿京王百貨店の駅弁大会。
今年はコロナウィルスの大流行と、開催直前には緊急事態宣言の発出まであり、「開催できるのか?」と随分ヤキモキもしましたが、会場を2分するなど、各種感染対策を施した上で無事開催となりました。
例年のような「押すな、押すな」の賑わいは見られませんでしたが、逆に考えると悪いことばかりではなく、お客様が多種多様な駅弁をゆっくりと見ながら買えたのは良かったのではないでしょうか。
中には、何度も行ったり来りしながら、随分と迷われているお客様もいらっしゃいましたし、2週間の会期中に3回、4回と足を運ばれるリピーターの方を目にすることもできました。
ところで、全国各地で開催される駅弁大会ですが、その多くに当「駅弁ぐるめ」が関わっていることを、皆さんはご存知でしょうか?
「駅弁ぐるめ」では、新宿京王百貨店、梅田阪神百貨店、熊本鶴屋百貨店に加え、博多阪急百貨店を加えた「日本三大駅弁大会プラス1」が大きな仕事ではあるのですが、この他にも年間を通じて多くの中小駅弁大会を行っています。
駅弁大会をプロデュースし、駅弁業者さんと駅弁大会を繋げる役割の「駅弁ぐるめ」は、駅弁大会に欠くことができない存在であるわけです。
さて、今年の京王駅弁大会ですが、輸送駅弁コーナーで扱った種類は217種。
その中から、気になった駅弁を幾つかご紹介しましょう。
東北本線郡山駅 福豆屋 海苔のりべん
輸送駅弁で、最も売れに売れた駅弁がこちら!
途中で入荷数を増やすほどの勢いで売れました。
食べるとわかるのですが、下からご飯・海苔・ご飯・海苔という順番で、海苔が2段に分れています。しかも一番上の海苔の下には福豆屋さんご自慢の「おかか」が。そして、おかずに入っている卵焼がいいお味なんですよ。なにしろ自社製の手焼きですからね。
このように素朴でシンプルな家庭的な駅弁なのですが、そこに美味みが加わったのが喜ばれる一因なのかも。
しかも、掛紙も今となっては少数派の紐掛けで、これを見ただけでも手作り駅弁であることがわかります。
総武本線千葉駅 万葉軒 トンかつ弁当
このトンカツ弁当、不思議な駅弁の代表格だと思っているのは、私だけでしょうか?
この駅弁、毎年コンスタントにホントよく売れるのです。
商品によっては「昨年は連日売り切れだったのに、今年の動きは鈍いな・・・」と思うものもけっこうあるのですが、このトンかつ弁当は、地道によく売れるのです。
売場で立っていると「●●弁当どこ?」と聞かれる指名買いが多いのですが、トンかつ弁当はまず聞かれることはありません。それなのに気がつくと完売。しかも仕入れ数は他よりかなり多いのに。
万葉軒さんには悪いですが、ハッキリ言って見栄えのする駅弁ではありませんし、初めて目にする方は「なんと質素な・・・」と思われると思います。ですが根強い人気で、知っている人が、何気に黙ってサッと買って行く駅弁なのです。こういうのを「粋な買いかた」とでも言うのでしょう。
550円という値段は、数ある駅弁の中でも最安値クラスですね。
北陸本線福井駅 うなぎかに福めし
来年、創業120年を迎える番匠さんの新作。
酢飯の上に、カニ身のほぐしと鰻の切り身を5切れ乗せたもの。
福井の冬の味覚カニと、福井を流れる大河九頭竜川の鰻をイメージしたものと勝手に思っているのですが、どうでしょう?
この駅弁も指名買いが多かったですね。連日お昼前には完売となって、午後から来られたお客様に完売のお詫びをどれだけしたことか。
東海道本線京都駅 南洋軒 京風だし巻と牛すき重
京都大原の懐石旅館「三千院の里」が監修した駅弁。
ネーミングの「京風だし巻」というところにそそられます。
「牛すき」は他の駅弁にも見られますから、インパクトという点では、やっぱり「京風だし巻」。何と言っても美味しそうです。
たぶん、その為と思われますが、買って行かれるお客様は圧倒的に年配の方が多かったですね。
指名買いも多く、入荷量が多かったにも関わらず毎日完売していた商品。
山陰本線鳥取駅 アベ鳥取堂 トロかにめし
昨年発売の新作駅弁で、これ目当ての方も多かったですね。でも、午前中に完売で買えないお客様が続出。申し訳ありません。
茶飯の上に、カニのほぐし身とカニトロが乗っています。
「トロ」と言えば、マグロのトロにブリのトロと、魚の腹の部分と相場が決まっているので、最初は「トロ」ってなに?と思ったのですが、カニのたたきでした。
会期終盤にお話したお客様。「トロかにめし」2回目のご購入にいらしたとのこと。カニは他にもあるけど、カニのたたきはここだけ。食べたら美味しかったのでリピート買いだとか。
紀勢本線松阪駅 あら竹 黒毛和牛牛めし
どこからともなく聞こえた「これ、笑っちゃうほど美味いよね〜」という声に思わず反応。
「お客様、いま笑っちゃうほど美味しいと話された駅弁はどれでしょう?」。
という声かけにビックリ顔のお客様。
会話の中に割り込んだ係員にビックリするのは当然ですが、やっぱりこうした情報には敏感になります。
「あっ、これですが・・・」と教えて下さったのが「黒毛和牛牛めし」。
お値段は、ちょっとお高く1500円。
甘味がちょっと効いた味付けで、肉だけでなく脂身も大変おいしく食べられる牛肉弁当。数ある肉系弁当の中でも、美味しい弁当に間違いはありません。
食べていると、その味付けから口の中がくどくなるのですが、そんな時に付け合わせの梅干しが箸休めにいい味を出しています。
ただ、駅弁として1500円という値段が万人向けかどうかというと微妙な感じで、少数の入荷なのですが、販売には苦労するのも事実。
ある意味、先に紹介した「トンかつ弁当」の対極に位置する駅弁かも知れません。
常磐線水戸駅 しまだフーズ あんこう三昧弁当
水戸近郊の大洗町は沖合で獲れる「あんこう」の町として有名で、江戸時代には高級食材として将軍家へ献上されるほどのものでした。
そこで、地元の駅弁として作られたのが「あんこう三昧弁当」。「あんこう」の身の唐揚に味噌煮、そして貴重な「あん肝」を使った味噌煮まで入っている「あんこう料理」の駅弁です。
連日完売という状態だったのですが、全国的に貴重な「あんこう」の駅弁ということを知っている方がサッとお買い上げくださる、知る人ぞ知るという感じの駅弁。
派手さはゼロなだけに、お客様の買い方を見ながら強く印象に残った駅弁です。
「あっちっち」系駅弁。
紐を引っ張ると、暖かい駅弁になるやつのことです。
輸送駅弁コーナーには、10種類弱ほどあったのですが、そのどれもが苦戦。
この方式が登場した数十年前は、確かに話題性がありマスコミ等にも多く取り上げられましたが、今では駅弁としてのニーズには合っていない感じです。
暖かい駅弁よりも、中身がどうなのか。お客様にとって、ここが一番の関心事。
駅弁は弁当ですから冷えてて当然。ですから冷めても美味しく食べられる商品開発にメーカーさんは心血を注いでいるわけで、お客様も「駅弁は冷めても普通に食べられる」ことをご存知なわけです。
ですから暖かいよりも、駅弁としての中身の充実度が最重要。
「あっちっち」系駅弁の苦戦を横目で見ながら、感じたしだいです。