昔は、山の駅弁に鮎が使われることが多かったのですが、近年の駅弁業界縮小の波とともに、鮎の駅弁もすっかり少数派となってしまいました。
そうした流れに嬉しい意味で逆らっているのが、今回ご紹介する「鮎屋三代」。
販売元は、JR鹿児島本線と肥薩おれんじ鉄道の結節点である八代駅前に店を構える頼藤商店。
頼藤商店は、明治の時代から三代続く鮎を使用した商品を販売する会社で、そこで扱う鮎は、富士川、最上川とともに日本三大急流に数えられる、地元球磨川のもの。
この「鮎屋三代」は、筆者が住む首都圏では駅弁好きならともかく、そうでない人の間では全くと言ってよいほど知られてはいませんが、JR九州が主催する駅弁ランキングでは三年連続で1位を獲得した実力派。
筆者自身の中でも「美味い駅弁」のカテゴリーに入っているもので、もっと多くの皆さんに食べて欲しい駅弁の一つですね。
さて、その「鮎屋三代」には「甘露煮」と「塩焼き」の二種類があります。
基本的には鮎の調理法が異なるだけで、内容的には、ほぼ共通。
ご飯は、やや薄味の炊き込みご飯ですが、その味付けに工夫があり、鮎を煮た時の出汁を使用しているという、オリジナリティ豊かな絶品。
箸休めの小さな御菜として、蓮・椎茸・竹の子の煮物、菜の花、桜大根の漬物、卵焼があり、そして、なぜか甘露煮の方だけには梅干も入っています。
実はこの御菜の中で、すごく感心したのが卵焼。ご存知のように卵焼は巻ながら作るものですが、その巻の1枚1枚がものすごく薄く、したがって素晴らしい口当たりに仕上がっているのです。これには、ちょっと感動です。
メインの鮎に共通しているのが柔らかさ。
甘露煮が柔らかいのは当たり前ですが、塩焼きも柔らかく、いわゆる一般的な塩焼きの食感とは全く異なるもの。
塩焼きと言えば普通、そのまま焼いて食べるものですが、ここの塩焼きの鮎は一度干されているという、とても手間のかかった調理法を採っています。
そのため、ものすごく柔らかく、骨まで何の違和感もなく、身と一緒にパクパクと食べられてしまうのです。
もちろん頭まで、丸ごと。
「鮎屋三代」を食する時は、身だけをほぐして食べるという食べ方は、大変にもったいない食べ方と言うか、もっと言えば邪道な食べ方と言っても過言ではないでしょう。
残り物が無いように、全てを食べてしまうのが、この駅弁を楽しむ唯一の方法であると、私は信じています。
そして、容器までもが良い味を出しているのです。
近年、プラスチック素材の実に味気ない容器(コンビニ弁当のような)の駅弁が増えている中で、竹籠をイメージした容器は「鮎屋三代」の美味しさを上手に引き出してくれています。映画だったら助演賞ものの容器と言えましょう。
見て良し。
食べて美味し。
そして、なによりもオリジナリティが極めて高い駅弁が「鮎屋三代」。
良い駅弁です。