「夏も近づく八十八夜
野にも山にも若葉が茂る
あれに見えるは、茶摘みじゃないか
あかねだすきに、菅(すげ)の笠
日和つづきの今日此の頃を
心のどかに摘みつつ歌う
摘めよ、摘め摘め、摘まねばならぬ
摘まにゃ、日本の茶にならぬ」
皆さんは、この歌をご存知でしょうか?
題名は「茶摘み」。
昔は誰もが知る文部省歌でしたが、今では知らない人も多いと思います。
歌に出てくる「八十八夜」とは立春から数えて88日目ということで、5月2日頃を指します。(年によって前後する時があります)
ちょうど、この頃に新茶を摘む様子を歌ったもので、その詩からは清々しい五月晴れの中、お茶を摘む日本的な風景を思い浮かべることができると思います。
ということで、今回は5月にちなんで「茶めし」です。
駅弁で「茶めし」と言うと、多くの人が醤油ベースの味付けをした、薄茶色の「茶めし」を想像されると思いますが、今日ご紹介するのは「お茶」を使った方の「茶めし」です。
日本語は難しいですね。
同じ「茶めし」でも全く違う2種類があります。
さて、画像1は東海道本線静岡駅東海軒が調製する「茶めし」。
過去には、宇都宮駅富貴堂「茶めし弁当」など、数種の「茶めし」が販売されていましたが、今でも残るのは東海軒の「茶めし」だけではないかと思われます。
お茶を連想させる緑色をベースに、昔ながらの茶娘を描いた箱を開けると、お菜は人参・蓮根・竹輪などの煮物、焼鯖、鶏照焼、玉子焼、海老フライ、蒲鉾、鮪角煮、ミニトマト、わさび漬け。
わさび漬けは、東海軒の多くの弁当に入れられている田丸屋のミニカップサイズで、東海軒の駅弁には欠かせないものとして、嬉しい存在です。
肝心のご飯は、お茶で炊かれているだけあって、ほんのりとした緑色で上品な感じ。
よく見ると、所々に細かな茶粉が残っていて、お茶で炊かれたことを微妙に主張しています。
そして、一枝のお茶の葉が添えられている演出が素晴らしいですね。
この小さな茶葉があるだけで「茶めし」を最大限に表現しており、絶対に外せないアイテム。
お米の選定は、東海軒が特に力を入れており、もっちりとした食感が程よく、「駅弁=冷めていても美味しい」という基本中の基本を全く崩していません。
ただ一点「茶めし」という視点に立てば、もう少しお茶の香りがしてもよいのではないかと、個人的には感じるところではあります。
今となっては貴重な存在である「茶めし」。
駅弁に絶滅危惧種である「レッドデータ・ブック」があるとしたら、間違いなく登録されるであろう東海軒の「茶めし」です。