今年も、終戦の日がやって来ます。
数えること78回目。
戦争は国民生活のあらゆる場面に影響を与えましたが、駅弁も例外ではありませんでした。
今日は、そうした中からの一つをご紹介しましょう。
画像1は、いきなりインパクトが強すぎますが、これも駅弁の掛紙です。
知らない人が見たら、これで食品を包んでいたとはとても思わないでしょうし、今の感覚からすれば、見ただけで食欲が減退してしまいそうです。
使用者は米原駅の井筒屋で、昭和17年7月の掛紙ですから、6月にミッドウェー海戦で大敗した直後。
そして、ちょうどフィリピン全土を占領した頃になります。
大きく描かれたのは、鉄兜を被った陸軍の兵士ですが、目つきが座っているというか、ちょっと寒い。
そして「沈黙!!一人一人が防諜戦士」の標語。
「防諜」ですから、情報を守るということなので、「余計なことを喋らず、黙っていなさい。そうした行いも一緒に戦う同士です」と、国民へ呼びかけているわけ。
その下方に「水筒を成るべく御携帯下さい」と書かれているのも、容器入り駅売り飲料の販売を抑制するための節約運動奨励のための断り書き。
「御弁当」の文字の下にある「マル停」マークは「価格等統制令」によるもので、物価高騰への処置として、昭和14年9月18日現在の価格をもって上限としたもののマークです。
画像2は、直江津駅山崎の掛紙で、現在のホテルハイマートです。
掛紙を6区画に分け、それぞれに戦争標語を載せています。
その意味は、
右上「交通道徳」は、整列乗車で列車の定時運行。
右中「貯蓄奨励」は、貯蓄した資金で国債を買って戦費調達に協力。
右下「節米運動」は、生産性の落ちた主食米の無駄を無くしましょう。
左上の「健康増進」は、強い身体を作って戦争に協力。
左中「物資愛護」は、物を大切にして物資の節約。
左下「防諜」は、身近にいるかも知れないスパイに注意。
井筒屋の掛紙にも、山崎の掛紙にも「防諜」が記され、特に井筒屋の掛紙は「防諜」一色の有り様。
実は、この「防諜」は戦争が進むとともに国民の間でどんどんと拡大解釈され、終いには物不足による物価高騰までもが「スパイの仕業」になってしまいます。
下の画像は、昭和19年3月10日の朝日新聞に投書されたものですが、この投書人は「物の値段が高いという話しは、全て敵のスパイが言い出したのが原因」という趣旨の発言をしています。
そして、それを防ぐ方法として「伝聞を聞いても、黙っていて、人に伝えない事が一番大切」という趣旨の主張(赤線部分)をしています。
上記2枚の掛紙に書かれているように、一般国民が誰にでもできる戦争協力の手段としては、まさに「沈黙!!」が一番ということなのでしょう。
駅弁掛紙も、戦争遂行のための道具の一つであった歴史があるのです。