3月は水戸の梅

「梅一輪一輪ほどの暖かさ」
松尾芭蕉の弟子の服部嵐雪が詠んだ句ですが、その意味は「梅の花が一輪咲くごとに、少しずつ暖かくなってくる」というもの。
梅は中国が原産ですが、日本では1〜3月にかけて咲き、私が生活する関東では、特に2月下旬から3月中頃にかけて多く咲きます。

関東で梅の一番の名所と言えば、茨城県水戸市の偕楽園。
偕楽園は、江戸時代に第九代水戸藩主であった徳川斉昭によって作られた庭園で、天保13年(1842)に開園しており、園内には約3000本もの梅が植えられています。

偕楽園位置図(昭和6年 大日本帝国陸地測量部)

下の画像は、昭和41年2月25日に発行された「偕楽園」を描く切手で、右側に配されている白い花が梅。
これを見ても、偕楽園が梅の名所として有名なのがわかります。

さて、下の画像は水戸駅で構内営業を行なっていた鈴木屋の掛紙で、昭和13年に使用されたもの。
描かれているのは、
「はて、どこかで見たような・・・」
そうです。上で紹介した切手とほぼ同じ構図。


中心に描かれている建物は、偕楽園の中の好文亭と言われる建物で、掛紙の上部にも「偕楽園公園好文亭」と紹介されています。
「好文」とは梅の別名で、徳川斉昭が「学問に親しめば梅が咲き、学問を廃すれば咲かなかった」という、晋の武帝の故事にもとづいて命名したもの。
学問を大切にした水戸徳川家らしい命名で、梅の名園としての偕楽園の由来がよくわかります。
この掛紙では、好文亭の右脇に白い花を付けた樹木が描かれていますが、これが梅の花で、その存在を妙に主張し過ぎていないところに好感が持てる図案です。

掛紙の鈴木屋は、明治29年から水戸駅で構内営業を始め、昭和戦前期には上野〜仙台間の駅弁業者としては模範的調理場と称されていました。
しかしながら駅弁を取り巻く環境の変化から、平成22年(2010)に営業を停止してしまいました。

現在の水戸駅では、その後に駅弁に参入した別会社によって「偕楽園弁当」という、そのものズバリの駅弁が販売されていますが、掛紙に好文亭は描かれているものの、残念ながら梅の花は描かれていません。