長万部駅「かにめし」

北海道と言えば、美味しい食べ物。 旅行の目的の1つに、美味いもの巡りが必ずあるはず。
たとえ、それが仕事の出張であっても、仕事が終わればどこかで北海道らしい食べ物を食べるということが、頭の片隅にあると思います。
海の幸に山の幸、ラーメンなどなど、どれを食べるか迷っちゃいますね。
そんな食の宝庫の北海道。当然、駅弁大会では飛ぶように売れると思うかも知れませんが、それが意外とスローなのです。
カニ、ウニ、イクラに鮭。そして牛やジンギスカンなど、定番と言える食材がズラリと並ぶのですが・・・。
例えばカニだと、北陸や山陰のカニ駅弁の方が、受けが良いですね。

そのような中にあって、北海道のカニ駅弁の老舗が長万部駅の「かにめし」。
登場は昭和25年(24年とする資料も有り)ですから、70年以上も前から売られている、駅弁界のお爺ちゃん的な存在。
その誕生の裏には、戦後の食料難が関係していました。
戦後の食料難は、さすがの北海道にも影響は大きく、食材の調達に苦労の連続でしたが、長万部の目の前に広がる海(噴火湾)では、毛ガニだけは捨てるほど大量に獲れていました。
その厄介者の毛ガニを茹でて売ることを思いついたのが、長万部駅構内立売商会(現かにめし本舗かなや)の女将であったと伝えられています。
このカニ販売の経験があったからこそ、それを弁当に発展させることができ、戦後の早い段階から名物駅弁として広く知られるようになったのです。

列車が駅に到着する前に乗客がドア付近で待機し、停車と同時にホームへパッと散り、売子の元へと殺到する。
かつて信越本線横川駅で「峠の釜飯」を買い求める光景として、度々テレビで紹介されていましたが、横川駅でこの光景が生まれる以前から、函館本線長万部駅では見られていました。
列車からホームの売子めがけて殺到する元祖は、長万部駅の「かにめし」だったのです。

さて、その駅弁の中身ですが、白ご飯の上にカニのほぐし身、グリーンピース、椎茸煮、錦糸卵、小梅が乗っています。
カニのほぐし身は、酒・塩・胡椒などを用いて味付けされた出汁で煮詰めたものと、茹でた白身の二つの味が楽しめます。
放射状に置かれた椎茸は、カニが手足を広げたイメージを現しているそうで、こんなところにもちょっとしたこだわりが見られます。

箸休めには、現在はヒジキ、ワカメ、コナゴの佃煮が入っていますが、以前は岩海苔で、この岩海苔が素晴らしく美味しかったので、ぜひ復活してもらいたい一品。

メインのカニの方は、事の起こりは先に述べたように、獲れすぎた毛ガニの消費方法が出発点だったのですが、時とともに毛ガニの漁獲量が撃滅、今ではかつてとは正反対に高級品になってしまい、使いづらい食材。
このような状況から、現在ではズワイガニが使われています。
駅弁名も昔から「かにめし」だったので、意外な展開になっても、そのまま使えます。
「毛ガニめし」ではなくて、良かったですね。
掛紙は「毛ガニ」ですが、「かにめし」のルーツを示しており、逆に面白いと思います。(掛紙は、現在では画像と異なるものを使用しています)