ズワイ蟹

11月になると「ズワイ蟹漁解禁」のニュースが届きます。
ズワイ蟹の水揚げ地の一つである福井県に長いこと住んでいた私にとって、このニュースは「あー、今年もあと2ヶ月、師走は近いぞ」と思わせる、季節の便り。

蟹を使った駅弁は数多く、使用する蟹も北海道では毛蟹や花咲蟹、タラバ蟹が多く、ズワイ蟹は北陸から山陰にかけてが主流になります。
そのズワイ蟹ですが、水揚げされた地方によって呼び名が変わり、石川県では加能蟹、福井県では越前蟹、山陰地方では松葉蟹と呼ばれ、このうち越前蟹と松葉蟹が昔から双璧として有名です。
越前蟹の中にはセリで10万円以上の値を付け、東京の超高級料亭に買われて行く物もあるほど。
市場のセリ値で10万円以上ですから、料亭では幾らなんだろう・・・。

日本交通公社『日本国有鉄道監修 時刻表』昭和31年12月号

画像1は、日本交通公社発行『日本国有鉄道監修 時刻表』昭和31年12月号に掲載された山陰本線鳥取駅での「松葉蟹」売りの光景。東京行きの急行「出雲」号の2等客が松葉蟹の入った籠を受け取るシーンですが、記事では一籠200円と紹介されていますので、現在の感覚からすると駅弁の「幕の内弁当」2個分ほどの値段となります。

このズワイ蟹、今はとんでもない高級蟹なってしまいましたが、昭和30年代までは水揚げ量が多く安価なもので、「子供の頃は、おやつとして食べたものだ」という話を、年寄りの方からよく聞いたものです。
この頃の乱獲が、今の資源不足を招いたものと思われ、今ではどこでも厳格な漁期を定め、資源回復に努めています。

さて、このズワイ蟹を使った駅弁ですが、以前から有名な物が2種類あります。
北陸本線福井駅番匠の「越前かにめし」と、山陰本線鳥取駅アベ鳥取堂の「元祖かに寿し」。
「越前かにめし」の発売は昭和36年であり、「元祖かに寿し」(当初は「元祖」は入っていない)は昭和27年の販売開始なので、鳥取駅「かに寿し」がズワイ蟹を使用した駅弁第1号であることがわかります。

画像2が、その「かに寿し」の掛紙。
「かに寿し」が登場した昭和27年当時は、まだ保存技術が発達していなかったことから、11月〜翌年3月までの蟹シーズンのみの販売でしたが、独自の保存技術を研究・開発し、昭和33年からは通年で販売が可能になりました。

昭和30年代後半の大阪や横浜での駅弁大会の実演販売での人気はとても高く、会場内には延々と大行列が作られ、実演販売だけでは追いつかないので、大阪に限っては鳥取からも輸送して対応する超人気商品であったと言われています。
美味さに加えて、当時はまだ蟹を使用した駅弁が少なく、その珍弁が現地に行かずとも食べられたところが、大行列を作る一番の要因だったのでしょう。

筆者は蟹も大好きなので、今までに大小様々な蟹を食べて来ましたが、味が良く、食べてボリューム感に優れたズワイ蟹が、蟹の王様だと思っています。
蟹高騰の現在、その蟹の値段と駅弁として売れる数のバランスの中で、商品としていかに生き延びていくのかが大きなポイントであると思えます。
蟹の王様としてのズワイ蟹駅弁。
この先も、ずっと販売が続いてほしい名物駅弁の1つです。