冷凍技術の発達により、1年中食べることができる「しらす」。 場所にもよりますが、春から秋を漁期として冬は禁漁とする所が多いようです。 筆者は神奈川県の鎌倉、それも江ノ島近くに生まれ育ったため、近海物の海産物には恵まれた環境の中で育ちました。 そのためか、幼稚園のお弁当のご飯の上に「しらす」がよく乗っていたのを覚えています。「しらす」の釜揚げを乗せた、いわゆる「しらすご飯」ってやつです。
「しらす」と言うのはカタクチイワシ、マイワシ、ウルメイワシの稚魚を指すことが一般的で、稚魚なので水分が多いため痛みやすく日もちがしません。「生しらす」を使った海鮮丼が漁港近くの食堂などでしか提供されない理由は、そこにあります。 ですから、お弁当に使うのは「釜揚げしらす」に限られます。
駅弁で「しらす」を語った第1号は、東海道本線浜松駅自笑亭の「遠州灘しらす弁当」で、意外と新しく1987年の発売。 発売開始当初は普通の駅弁と同じく1段弁当だったのですが、平成3年には「しらすご飯」と「おかず」が別々になった2段弁当へと発展しています。この時の「おかず」はフライ、エビ天、ミートボール、焼魚、蒲鉾、卵焼、人参・椎茸・筍の煮物という豪華駅弁でしたが、近年には再び1段へと逆戻りしたようです。
近年、幾つかの駅で「しらす弁当」が売り出されましたが、駅弁好きの間で名が通ったのが常磐線水戸駅の「釜揚げしらす弁当」画像1。
パッケージもよく練られており、釜揚げ作業をしているイラストに窓が開けられ、弁当の「しらす」が見える仕掛け。まるでリアル作業を見せるような楽しい演出です。 弁当の中身は画像2のとおり。
「しらす」の下のご飯は、もちろん茨城県産。それが、ほんのりと隠し味が利いたタレが決め手の「しらす」との相性がバツグンで、もうこれだけで食べるに十二分な魅力があります。
「おかず」の中には、「あんこう」の唐揚げが2個。この駅弁を作っている「しまだフーズ」は「あんこう三昧弁当」という名物駅弁が別にあるほど、地元の食材である「あんこう」に力を入れています。 「あんこう」自体は淡泊な味なのですが、淡泊だからこそ、「しらす」との相性が良いのでしょう。「しらす」より味が目立ってはいけません。 もう一点。この駅弁で感心したのが「梅干し」。大粒で肉の厚い、ちょっと甘めの「梅干し」ですが、これが実に美味で、どこの製品なのかお聞きしたいほどです。 駅弁で、これだけ美味い「梅干し」は食べたことがありません。さすが、梅の産地である水戸だけのことはあります。
「釜揚げしらす弁当」。 地場物にとことんこだわった駅弁であり、食べて美味いし、よく人に勧める駅弁でもあります。 駅弁大会でも、お客様に聞かれるとお勧めはするのですが、残念ながら反応はいまひとつ。 その原因は、たぶん見栄えによるものだと思います。どうしても見た目の華やかさに目が行くのは仕方がありません。 ですが、食べてくださった方の評判はすこぶる良く、リピーター買いの方もいらっしゃるほど。 全国的に名の知れた有名駅弁ではありませんが、そうした中ではイチオシの駅弁です。